シンポジウム「埼玉県西部地域での成年後見の新たな展開と地域の役割」が5日、川越市のウエスタ川越で開催され、成年後見制度の利用促進に向けて川越、飯能の両市における地域連携ネットワークの取り組みや地域特性に応じた利用促進、士業・金融機関の役割などが報告されました。
成年後見制度は大きく変わろうとしています。より使いやすい制度にするため、国も利用促進法や促進計画を策定し、各市町村でも模索が始まっています。印象的だったのは、「成年後見の目的は身上保護であり、財産管理は手段にすぎない」との言葉です。法律専門職は身上保護には消極的だと批判されることが多いと思います。しかし、今後は地域の一員として、地域に溶け込み、認知症などで判断能力が十分でない方々を支援できる体制をしっかり構築するための一角を担っていく必要があります。
一方で、判断能力があるうちに、生活、医療・介護・福祉等の身上保護や財産管理等、ご自身がこうありたいと思う今後の生活を「任意後見制度」や「家族信託」などの制度も活用して事前準備することの重要性をあらためて認識しました。
「思い立った時から準備を。『今はまだ大丈夫』は避けたい」との言葉が象徴的です。判断能力を失ってからでは遅いのです。事前にあらかじめ自分自身で決めておけば、判断能力を失った後でも自分で決めたレールに乗って、自分らしい人生を歩むことができるのです。それは素晴らしいことだと私は思います。
シンポジウムには、川越市の川合市長や飯能市の副市長も訪れ、日本成年後見法学会の新井誠理事長、司法書士の高橋弘先生、弁護士の伊庭潔先生ら豪華な顔ぶれで、成年後見制度への大きな期待も感じることができました。
シンポジウムでは、伊庭潔弁護士による任意後見と家族信託の違いについて、わかりやすい説明がありましたので、紹介いたします。
ご高齢になったときの課題として次のようなものがあります。
①預金の引き出し、不動産の賃貸借など【財産管理】
②市町村への養介護認定申請、施設への入所など【身上保護】
これらについては事前準備が必要になります。そして、その解決方法として主なものに「任意後見」と「家族信託」の二つの方法があります。
任意後見と民事信託の違い
- 財産の積極的な活用や借り入れ【財産管理】→「任意後見」では難しい、「民事信託」ではできる。
- 市町村への申請や施設入所契約【身上保護】→「任意後見」では可、「民事信託」では対応できない。
- 任意後見人や受託者(家族信託)→専門職は任意後見人になれるが、受託者(家族信託)にはなれない。
重要なのは、家族信託は任意後見の代わりになるものではないということです。お互いに補完し合う関係性にあります。家族信託だけでは身上保護ができません。家族信託では、委託できる財産が決まっているため、たとえば農地や年金受給権のような権利は委託することはできません。個人的には、任意後見をベースにして、プラスアルファとして家族信託を考えるイメージがいいのかなと思います。