先日、お客様から「二束三文の田舎の山林を相続したくないが、どうしたらいいか」との相談がありました。
土地所有権の放棄の可否については,現行民法に規定がありません。確立した最高裁判所の判例も存在しないようです。高等裁判所の判決では「土地の所有権放棄は権利濫用等にあたる」(広島高裁松江支部平成 28年 12月 21日判決)として、認められなかったケースもあり、土地の所有権放棄は現実的には困難となっています。
ただ、いらない土地を持ち続けるデメリットは以下のようなものがあります。
いらない土地を持ち続けるデメリット
1.固定資産税がかかる
固定資産税とは、その年の1月1日時点における不動産の所有者が納めるべき税金です。固定資産税評価額×1・4%で算出します。不要な土地でも、毎年、税金を支払う必要がでてきます。ただ、山林の課税評価額30万円以下の場合は、固定資産税はゼロになります。
2.管理が大変
所有者には土地を管理する義務があります。いらない土地だからと何もせずに放置することはできません。周辺住民に迷惑がかかることがあるかもしれません。私有地で発生した災害事案により第三者に損害を与えてしまった場合には、土地所有者に賠償責任が発生します(民法717条)。
3.簡単に処分・放棄ができない
法律には土地を所有するためのルールは定められていても、いらない土地を放棄するためのルールは定められていません。簡単に処分ができないので、相続が発生すれば、また次の代に負の遺産を引き継いでいくことになります。
以上のようなデメリットがある上、二束三文の土地であれば、寄付や売却、譲渡をすることも難しいでしょう。
「じゃあ、どうすればいいの?」
相続を望まない土地がある場合の対処法として、これまでは主に二つの方法がありました。
1.相続を放棄する
故人に遺産がほとんどなけれれば、相続を望まない土地も含めて家庭裁判所に対する「相続放棄」の手続きを行うことが多いと思います。相続放棄はプラスの財産も、マイナスの財産も全て放棄することを意味します。例えば、いらない土地だけを放棄して、残りの遺産を相続することは認められません。
相続には順位があるので、最優先順位の相続人が相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人へ移ります。
相続の順位は第三順位まであるので、第一順位から第三順位までの相続人が全員相続放棄をしたら、法律上は「相続人不存在」となって、相続人が誰もいない状態になります。
相続人が誰もいないのに、遺産(土地)だけは残されている状態になります。この場合、たとえ相続を放棄したとしてもこの土地の管理責任までは免れません。相続人でなくなったとしても、代わりに管理する人が見つかるまでは管理する義務があるのです。
相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。
民法940条
管理責任を免れるために家庭裁判所に対して「相続財産管理人」の選任手続を申し立てることになります。選任手続を行う際に相続財産を管理するためにかかる費用を「予納金」として納めることが原則必要です。金額は事例により異なりますが、数十万円から100万円程度まで幅があり、この「予納金」が「相続財産管理人」の手続きをためらわせる一因となっています。
2.相続登記をせずに放置する
相続登記の義務化が令和6年4月1日から始まります。3年以内に相続登記をしないと、10万円以下の過料となります。したがって、いらない土地を相続したくないから、相続登記を放置することは、今後、違法となります。
相続を望まない土地については、現状、決め手となる対処法がないのが実情です。
「相続土地国庫帰属法」が成立
「相続登記を義務付ける法律」と同時に「相続土地国庫帰属法」が令和3年4月に成立しました。
この法律が「相続を望まない土地」を解決する新たな方法の一つとなります。
ただ、審査手数料や10年分の土地管理費相当額の納付が必要となるほか、要件も厳しいです。
相続土地国庫帰属法については、次のブログで考えたいと思います。