「親がかつて樺太出身だったが、戸籍が見つからない…」といったご相談をよくいただきます。 本記事では、樺太に本籍があった方の相続手続きで必要な戸籍取得方法や、外務省で取得可能な村一覧について、司法書士が解説します。
樺太の戸籍に関する証明はどこで取得できる?
樺太(現在のロシア・サハリン州)は、かつて日本の領土(南樺太)でした。昭和20年の終戦により日本の施政権が失われたため、当時の戸籍簿は一部が日本に持ち帰られました。
現在、旧樺太の戸籍は主に以下の2パターンで取得が可能です:
- ① 終戦前に内地(日本本土)へ転籍していれば、市区町村役場で取得可能
- ② 外務省が保管している一部の村の戸籍原本写しを取得可能
ただし、全ての村が対象ではなく、外務省で取得できるのはごく一部の村に限られます。
相続登記になぜ戸籍が必要なのか?
相続登記とは、不動産の名義を亡くなった方から相続人へ変更する手続きです。この登記を行うには、「誰が法定相続人なのか」を証明する必要があります。
そのためには、被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍をすべて揃えた上で、相続人全員の戸籍も提出しなければなりません。
具体的には、以下のような理由で戸籍が必要になります:
- 被相続人の出生から死亡までのつながった戸籍により、全ての相続人を特定
- 相続人の現在の戸籍により、本人確認と関係性を証明
- 相続関係説明図(登記申請書に添付)を作成するため
したがって、被相続人が樺太出身であった場合、その本籍地の戸籍が取得できなければ、相続関係の証明が困難になり、登記申請に支障をきたすことがあります。
外務省で資料が取得できる旧南樺太の村一覧(6村)
令和3年4月現在、外務省では以下の6村分の戸籍簿や除籍簿の原本写しを保管しています。申請可能な村は限定されていますので、ご注意ください。
郡 | 村名(読み) | 保管内容 |
---|---|---|
大泊郡 | 知床村 | 戸籍簿15冊・除籍簿3冊 |
大泊郡 | 富内村 | 戸籍簿1冊 |
大泊郡 | 遠淵村 | 戸籍簿4冊 |
敷香郡 | 内路村 | 戸籍簿9冊 |
敷香郡 | 散江村 | 戸籍簿4冊 |
元泊郡 | 元泊村 | 戸籍簿8冊 |
👉 詳細情報は外務省公式サイト(「旧樺太の戸籍に関する証明」)をご確認ください。
なぜ「6村」だけなのか?
外務省に保管されているのは、終戦時に日本へ持ち帰られた戸籍簿の写しです。 そのため、全ての町村ではなく、上記6村に限って戸籍簿・除籍簿の原本写しが存在し、申請が可能です。
外務省での申請方法(概要)
- 「旧樺太戸籍簿及び除籍簿原本写し」の請求対象は上記6村のみ
- 申請は郵送のみで受け付けている。
- 弁護士・司法書士・行政書士による申請事務の代行が可能
- 必要書類:申請者の戸籍、被相続人との関係が分かる書類等
- 交付手数料は無料(ただし、1人につき1通限り)
樺太本籍の戸籍が見つからない場合の対処法
戸籍が取得できない場合、相続登記や他の手続きに影響が出る可能性があります。樺太の戸籍の期間が長く戸籍を用いて法定相続人の確定ができないことはありえます。その場合には、無いものは無いのでどうしようもないため、樺太の戸籍以外の戸籍は完璧に揃えたうえで、法務局等に提出することになります。
私がご依頼を受けた案件をご紹介すると、樺太出身で、外務省対象の上記6村に含まれない被相続人がいました。法定相続情報一覧図を作成するため、被相続人が9歳になるころまでの戸籍を添付せずに、さいたま地方法務局の出張所に提出したところ、そのまま受理され、法定相続情報一覧図が作成されました。申請後に法務局の担当者より連絡があり、「外務省などの情報を調べましたが、今回はこのまま受理いたします」とのことでした。受理されるか不安な場合は、事前に法務局にご相談されることをお勧めします。
まとめ
- 旧樺太の戸籍は原則取得困難だが、一部は外務省で取得可能
- 取得できるのは「知床村」など6村に限られる
- 相続登記には被相続人の出生から死亡までの戸籍が不可欠
- 取得できない場合は代替手段を検討するなど、司法書士へ相談を
司法書士福田龍之介事務所
埼玉県富士見市/鶴瀬駅東口徒歩2分
相続・遺言・戸籍調査に豊富な経験。樺太出身者の相続案件も対応しています。