遺言書の基本を徹底解説!種類やメリット・よくある誤解をご紹介!

終活ブームにより、遺言書を作成しようと考える人は増えていると思います。

「自分の大切な財産をどうするか、しっかり決めておきたい」という思いだけでなく、「自分の遺産相続がきっかけで、家族がバラバラになってしまわないように遺言を残したい」「子どもたちの相続手続きの負担をなるべく減らしてあげたい」といった残された家族のことを第一に考えて、遺言作成に踏み切る人が多いように思います。しかし、遺言作成には法的なルールがあります。せっかく書いた遺言書もルール通りに書かれていなければ無効とされ、終活の意味がなくなってしまいます。遺言作成のメリットや作成した方がいいケース、注意事項など遺言の基本について解説します。

遺言を作成するメリット

①相続手続きの負担が軽減され、スムーズに手続きを行える

遺言書がない場合の相続手続きでは、戸籍謄本や除籍謄本、改製原戸籍、住民票など数多くの書類を集める必要があります。その上で、相続人全員で遺産分割協議を行って遺産の分け方を決め、遺産分割協議書に相続人全員が署名と実印での押印を行い、さらに全員の印鑑証明書を揃える必要があります。

つまり、相続人の一人が行方不明だったり、連絡が取れなかったりすると遺産分割協議ができず、手続きが遅々として進まないことになってしまいます。さらに相続人が全員そろっても、遺産分割協議は相続人同士が話し合って決めますので、遺産の分け方を巡って意見が対立し、話し合いがまとまらないこともあり得ます。そうなると、以後の相続手続きがストップしてしまいます。

一方、遺言書があれば、遺産は遺言に従って分けることになるので、相続人同士での遺産分割協議は必要がなく、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑証明書も不要。被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本等を集める必要がなく、書類を集める労力も軽減されます。そのため、相続手続きをスムーズに行うことができるのです。

②相続人以外にも財産を渡すことができる

遺言書がない場合、遺産を取得できるのは、法定相続人に限られます。法定相続人は配偶者、子、親、兄弟などです。例えば、献身的に介護をしてくれた息子のお嫁さんやお孫さんに、遺産の一部を渡したいと思っても、遺言書がなければ遺産を渡すことができないのです。

一方、遺言書で遺産を渡す相手を指定しておけば、遺産を残せる相手は相続人に限られません。お嫁さんやお孫さん、お世話になった人、慈善団体への寄付など、個人・団体を問わず、自分の希望する相手に遺産を残すことができるのです。

③残る家族へ想いを伝えることができる

遺言書には、主として遺産の分け方など財産に関することを記載します。

しかし、財産のことだけを端的に書いたのでは、「どうしてそのような分配にしたのか」「なぜその人に遺産の全てを相続させようと考えたのか」など、遺言書を作成した本人の想いが伝わりません。

そこで活用したいのが「付言事項(ふげんじこう)」です。付言事項とは、法律に定められていないことを遺言でする事項のことをいいます。遺言の本文のほかに記載することができる文章のことで、その遺言を書いた人の想いメッセージを記しておくことができます。

遺言の本文のように相続人に対する法的な拘束力はありませんが、遺言者の心を相続人に伝えることができます。法的効果のある遺言の本文を心の部分で側面から支えるのが付言とされています。状況にもよりますが、遺言者の想いやメッセージが相続人に伝われば遺留分侵害額請求を防ぐ効果もあるかもしれません。仕事上、付言事項を拝読させていただく機会があるのですが、思わず目頭が熱くなってしまうような感動的な文章もあります。付言は法律に温もりを与えるといわれます。本文とセットで書くことをお勧めします。

特に遺言を作成した方がいいケース

①子どもがいない夫婦の場合

夫婦の一方が亡くなった場合、配偶者が全ての財産を無条件に相続できるわけではありません。なぜなら、亡くなった配偶者の父母や兄弟姉妹にも相続権が生じるからです。

そのため、残された配偶者は、義父母や義兄弟姉妹(場合によっては義甥姪)と遺産分割協議をし、署名と実印での捺印、印鑑証明書の取得などをお願いしなければなりません。精神的負担が大きいだけでなく、その間、亡くなった配偶者名義の預貯金を引き出すこともできないので、金銭面での不安も生じかねません。

遺言書で「全財産を配偶者に相続させる」としておけば、義父母らとの遺産分割協議の話し合いが不要になるため、残された配偶者がスムーズに全財産を引き継ぐことができます。

②再婚歴があり、先妻・先夫との間にも子どもがいる場合

離婚の際、子が相手方配偶者に引き取られ、親権も相手方が有することとした場合でも、その子との親子関係はなくならず、相続が発生すれば、その子も相続人になります。したがって、遺言書がなければ、遺産分割協議が必要となり、その子にも遺産分割協議への参加や印鑑証明書の提出などで協力してもらわなければならず、残された家族が苦労するかもしれません。

そこで、遺言書により遺言の分割方法を指定しておけば、その子の協力なくして、相続手続きを行うことができるため、家族の負担を減らすことができます。

  • ただし、配偶者・子・父母らには「遺留分(いりゅうぶん)」という法律で守られた権利があります。遺留分とは、一定の法定相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない最低限度の遺産取得分のことです。遺言内容が遺留分を侵害する場合であって、遺留分を有する人から請求(遺留分侵害額請求)があった場合には、遺留分相当額の財産を支払う必要があります。

③相続人の中に認知症の人がいる場合

将来相続人になる人(推定相続人)の中に認知症の人がいる、または認知症になる可能性の高い人がいる場合、あらかじめ遺言書を作成しておくと、相続人の関与なしに希望する形で相続を実現できるため、認知症の相続人がいる相続において非常に有効な対策となります。

例えば、「自宅については妻、預金については子」としたい場合に、遺言書を作成せずに相続が開始すると、妻が認知症の場合は遺産分割協議は行えず妻に成年後見人をつける必要があります。そのため、まずは妻の成年後見人の申し立てを家庭裁判所に行い、その上で、後見人が遺産分割協議書に参加します。後見人は認知症の妻が不利になるような協議を認めることはできません。法定相続分の財産及び生活資金を確保するため、「妻は自宅のみ相続する」という遺産分割を認めず、協議が硬直化する恐れがあります。

このような場合に、夫があらかじめ「自宅は妻に、預金は子に」という遺言を作成しておけば、相続開始と同時に遺言書の効力が発生し、遺産分割協議書を行わなくても、相続財産を希望通りに相続させることができます。

遺言書には遺言執行者の指定を

「認知症の相続人がいるので、遺言書を作成しておきたい」と考えた場合には、遺言書で遺言執行者を指定しておくことをおススメします。

遺言書はその内容に従って相続手続きを行う者が必要です。通常、遺言書で財産を相続することになった相続人が手続きを行うことが多いですが、相続人が認知症の場合は、遺言書があっても相続手続きが行えません。これではせっかく作成した遺言書の意味がなくなってしまいます。このような事態を避けるためには、遺言書の中で遺言執行者を指定しておきましょう。

遺言執行者は相続人の関与なしに遺言書の内容に従って相続手続きを行えるため、認知症の相続人がいても相続手続きを進めることができます。

④相続人のうちに連絡が取れない人がいる場合

遺産分割協議は相続権を有する相続人全員で行わなければなりません。相続人の中に連絡の取れない人がいる場合であっても、その人を除いて遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議は相続人全員で行う必要があるからです。

そのため、住民票などをたどって住所を調べて手紙を出すなどの方法によって連絡をとり、手続きの協力を求める必要があります。

スムーズに協力を得られればいいのですが、手続きへの協力を拒否されたり、調査しても住所が判明しなければ、家庭裁判所に対して遺産分割の調停や審判の申し立てをしたり、あるいは財産管理人の選任を申し立てたりする必要が生じ、残された家族にとって長い期間と多大な労力がかかってしまいます。

このような場合にも、遺言書があれば、遺産分割協議をすることなく、遺言書に基づいて相続手続きを進めることができるので、家族の負担を大きく減らすことができます。

⑤主な財産は自宅だけで、相続人間に不平等が生じる場合

土地や建物は、物理的に分けることが難しい遺産です。現金であれば、半分に分けることは容易です。しかし、不動産の場合は、分筆して物理的に二つに分ける方法は現実的ではありません。

不動産は資産価値は高いため、預貯金などほかの遺産が少ない場合には、遺産分けの際、不動産を取得した人と取得しない人との間で、取得する財産の額に不平等が生じ、もめる原因になりかねません。相続した自宅不動産を売却して、売却代金を分ける方法(換価分割)もありますが、それまで自宅に住んでいた相続人は納得しないかもしれません。

そのため、自宅を引き継いでほしい相続人が決まっているような場合には、遺言を作成した方がいいでしょう。ただ、遺留分の問題もあるので、遺言を書くだけでは不十分かもしれません。遺言で相続しても、遺留分侵害額請求をされて、自宅を売却するハメになったら意味がありません。

しかも、相続人間で遺留分侵害額請求をするような事態は、あなたが望む相続対策とはかけ離れたもののはず。相続人間で不協和音が生じることがないよう、生前からしっかり話し合っておくことが重要です。

遺言の種類

実務でよく利用される遺言書には「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」があります。

Ⅰ自筆証書遺言

Ⅰ-1自筆証書遺言とは

民法で定められた方式に従い、遺言者、本文・日付・氏名を自書して作成する方式です。筆記用具や紙に条件はありません。そのため、鉛筆やボールペンやノート、印鑑があれば、今すぐにでも作成することが可能です。ただし、法律上形式的に有効な遺言書として認められるためには、いくつかの要件をクリアしなけれならないので、その点は注意してください。次のような要件です。

①自分が手書きでつくる
②作成の日付を入れる
③自分の名前を入れる
④自分の押印をする

Ⅰ-2自筆証書遺言のメリット

  • 手軽に作成できる
  • 費用がかからない

Ⅰ-3自筆証書遺言のデメリット

  • 法定の形式を満たして作成しないと無効になってしまう恐れがある
  • 保管中に滅失したり、悪意のある者に隠匿、変造される恐れがある
  • 相続発生後、発見されない恐れがある
  • 相続発生後、家庭裁判所で「検認」の手続きを行う必要がある

Ⅰ-4法務局の「遺言書保管制度」でデメリット回避も可能

自筆証書遺言であっても「法務局における遺言書保管制度」を利用すれば、上記のデメリットのいくつかを回避することが可能です。

これまで自筆証書遺言は自宅で保管する人がほとんどでした。しかし、自宅で保管すると、遺言書の紛失、相続人などによる遺言書の隠匿や変造、破棄の恐れのほか、遺言書自体を発見してもらえない恐れなどの問題がありました。

そこで、令和2年7月から、法務局が遺言書の原本を保管してくれる遺言書保管制度が始まりました。この制度によって、遺言書の紛失や隠匿などを防止できるのみならず、遺言書を発見してもらいやすくなりました。さらに、これまでは、自筆証書遺言の場合は、遺言者死亡後に家庭裁判所において、遺言書の「検認」を受ける必要がありましたが、本制度を利用した場合には検認が不要になりました。

Ⅱ公正証書遺言

Ⅱ-1公正証書遺言とは

公正証書遺言とは、証人2名の立ち会いのもと、公正証書として公証人に作成してもらう方式です。公証役場で作成するほか、自宅や病院等へ出張しての作成も可能です。公証人が関与して作成する遺言書なので、確実性が高い形式といえます。

Ⅱ-2公正証書遺言のメリット

  • 原本が公証役場に保管されるので、滅失、隠匿、変造の心配が少ない
  • 公証人が本人確認と意思確認をした上で作成することから、後に遺言者の意思能力やなりすましが問題となる恐れが少ない
  • 検認が不要

Ⅱ-3公正証書遺言のデメリット

  • 費用がかかる
  • 手間がかかる
  • 証人2人が必要

Ⅲおすすめの遺言書は公正証書遺言

おすすめの遺言書は「公正証書遺言」です。公正証書遺言は、費用はかかってしまいますが、「無効になりにくい」「検認が不要」「トラブルになりにくい」などのメリットが大きいためです。

公証人は元裁判官や元検察官といった法律のプロ。登記や預金手続きなどの相続手続きを進める上で、公正証書遺言の信用度はかなり高いものがあります。自筆証書遺言も、遺言書保管制度の開始によってデメリットがいくつか解消されましたが、内容のチェックが受けられないことから、形式不備で無効になるリスクは避けられません。せっかく遺言書を作成するのであれば、多少の費用がかかっても、自分の遺志を確実に実現できる内容の遺言書を作成することが、残された家族のためにもなると思います。

公正証書遺言に関する記事はこちら>

遺言に関するよくある誤解

①遺言に書いた財産は使えなくなる?

遺言の効力が発生するのは、遺言者が亡くなった時です。それまでの間は、あくまでご自身の財産ですから、自由に使用・処分できます。つまり、自分で使ったり、売ったり、誰かにあげてしまっても構いません。

遺言書に書いてあるものの、遺言者が亡くなった時点で既に残っていない財産については、遺言者が生前に該当する部分の遺言を撤回したものとして扱われます。しかし、ほかの財産に関する部分の遺言は有効のままで、遺言書全体の効力がなくなってしまうわけではありませんので、わざわざ遺言を書き換える必要もありません。

②遺言書は一度作成したら変更できない?

遺言書を作ってから遺言書の効力が発生するまでには、長い期間があることも多いですから、その間に生活の状況や財産の状況、ご自身の考えが変わったりすることは当然にあります。

その場合は、ご自身の意思で、いつでも、何度でも、自由に遺言の内容を撤回・変更をすることができます

ただし、公正証書遺言を書き換えるには、所定の手数料が必要になります。そこで、作成当初から、ある程度の状況変化であれば書き換えずに対応できるような遺言内容にしておくことが望ましいでしょう。

まとめ

遺言が大事だというのは分かっているけど、重い腰が上がらないという方もいるかもしれません。

ただ、認知症になった後では、遺言書を作れない可能性が高まります。上記で見たように、特に遺言を作成した方がいいケースに該当する方は早急に対策を講じるべきです。司法書士として相談を受ける中で、「遺言書さえあれば…」というケースは少なくありません。苦労するのは、残された家族です。大切なご家族へ問題を残さないためにも、遺言を残すことを検討してみませんか。

当事務所では、公正証書遺言の作成支援から、自筆証書遺言の保管制度の利用サポート、家庭裁判所に対する検認手続きの申し立て、遺言執行者の選任など、遺言のあらゆる手続きを代行しています。

この記事を書いた人

福田 龍之介

【資格】司法書士
【略歴】埼玉の地方紙で、記者として約18年間働き、社会部、運動部、
    政治部などの記事を作成。
    その後司法書士として約4年間その専門性を磨き、現在に至る。
【所属】埼玉司法書士会