任意後見制度とは
人生100年時代。身体的には長生きできるようになりました。医療のさらなる発展により、認知症の治療も進むと思います。ただ、認知症の特効薬はまだありません。ですから、認知症のリスクとしっかり向き合う必要があります。
「認知症になっても自分らしい生き方ができるのか」「財産をどのように管理すればいいのか」
そんな不安が頭をもたげるかもしれません。不安に対処するには、不安と向き合わなければなりません。しかし、その不安があなたの人生をより輝かせる出発点になるかもしれません。
任意後見制度は、将来、認知症などで判断能力が不十分な状態になってしまう場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(=任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について、代理権を与える契約(任意後見契約)を、公証人の作成する「公正証書」によって結んでおくものです。
「自分の老後は、自分の選んだ人に託したい」と考える人には是非検討してほしい制度です。認知症などで判断能力が衰えてもあなたの希望する生活を叶える仕組みが任意後見制度といえます。この制度が終盤の人生を輝かせる〝薬“になるかもしれません。
任意後見の利用例
- 今は大丈夫だけど、将来、判断能力が衰えたときのことを思うと心配
- 頼れる親族がいない
- 親族に頼りたくない
- 自分の老後の生活を人任せにせず、自分で決めておきたい
- 後見人には信頼するあの人になってもらいたい
任意後見制度を利用しなかった場合に発生する諸問題
- お金の入出金や年金、家賃の管理ができない
- 老人ホームの契約ができない
- 介護の手続きができない
- オレオレ詐欺や訪問販売の被害に遭う
任意後見制度を使うことのメリット
- 希望する人を任意後見人に指名できる
- 契約内容の自由度が高く本人の意思を反映しやすい
本人が、自分の信頼できる人を指名できるのが任意後見制度です。判断能力がしっかりしているうちに、本人が希望する人を任意後見人に指名することで、将来認知症になっても、本人の意思や利益を尊重してもらいやすくなります。
任意後見は、本人と任意後見人の間で任意後見契約を結びます。契約内容は、本人と任意後見人が話し合って自由に決めることができます。だからこそ、たとえ認知症になっても、自分があらかじめ描いた老後を計画通りに送ることできるのです。
任意後見制度のデメリット
- 任意後見監督人選任の申し立てをしなければ効力が発生しない
- 本人の判断力が低下してからしか発効できない
- 本人の死後には権限が及ばない
- 任意後見監督人や任意後見人の報酬などの費用が発生する
本人と任意後見契約を結んだだけでは任意後見人選任の効力は発生しません。家庭裁判所が任意後見監督人を選任することによって効力が生じます。この手続きには時間や費用がかかります。
任意後見契約は、本人の判断力が低下してからしか発効できません。そのため、財産管理等委任契約など別の契約を結ばなければ、本人の判断力が低下する前に起こった事務について、任意後見人は関与できません。
任意後見契約は、本人の死後に生じる事務について権限は及びません。本人が亡くなった場合、契約は終了し、任意後見人は事務を行えなくなります。本人の財産や生活に関連する事務は、死後事務委任契約など別の契約を結んでいなければ、相続人や遺言執行者などに引き継がれます。
任意後見人が専門職の場合は月額2~3万円の報酬が発生し、任意後見監督人にも月額1~2万円程度の報酬が発生します。
任意後見と法定後見の違い
任意後見 | 法定後見 | |
本人の意思反映 | 叶いやすい | 難しい |
後見人 | 自分が選ぶ | 裁判所が選ぶ |
後見人の報酬 | 自分で決める | 裁判所が決める |
監督人 | 必ず付く | 付く場合あり |
支援の内容 | 代理権目録で定める | 原則として全て の法律行為 |
贈与・相続税対策 | ○ | ✖ |
任意後見を補完する制度
継続的見守り契約
契約締結後、定期的に本人のご自宅などに訪問し、生活の状況や健康状態を確認します。なぜ見守り契約が必要かというと、次の段階へ移行する必要があるか見極めるためです。本人の判断能力の低下に気づくことができ、速やかに任意後見契約をスタートさせることができます。
財産管理等委任契約
判断能力の衰えはないけれど、今すぐに財産管理をしてもらいたい、財産の一部だけでも管理してもらいたい-。そのようなニーズに応えるのが財産管理等委任契約です。病気・けがによる入院や身体的な障害により財産管理等の事務ができなくなっている、または、そのような場合に備えて、必要な範囲に限定した事務を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約です。
できることの例
- 入院契約
- 通帳の保管
- 預金の引き出し
- 入院費等の各種支払い
死後事務委任契約
本人が亡くなった後、火葬や葬儀、友人・知人への連絡、病院代の精算、施設利用料の清算等、死亡直後の事務について、委任する契約です。
相続人がいない方には特に必要となる契約だと思います。
死後事務委任契約でできることの例
- 葬儀のこと
- 法要
- 納骨
- 病院代等の清算
- 友人・知人への連絡
- 身辺整理
遺言
自分の財産を「誰に?どのくらい?どういう方法で?」配分するかを決める意思表示です。遺言書がある場合、遺言の内容が法定相続分より優先されます。
遺言を書いた方が良い場合
- 子どものいない夫婦
- 長男の配偶者に財産を渡したい場合
- お世話になった人に財産を渡したい場合
- 財産を渡したくない相続人がいる場合
- 内縁の妻(夫)に財産を遺贈したい場合
- 忙しい遺族の代わりに相続手続きをしてくれる人を決めておきたい場合
- 事業を継ぐ長男にスムーズに相続させたい場合 等々
まとめ
任意後見制度は、認知症などで判断能力が衰えた際、自ら選んだ代理人に生活や財産管理を委ねることができます。自分らしい老後を守るために、判断能力が十分なうちに任意後見契約を検討しましょう。